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こどもの精神分析II―クライン派による現代のこどもへのアプローチ

こどもの精神分析II―クライン派による現代のこどもへのアプローチ

木部 則雄 (著)

現代にあって発達障害は増加の一途にあり,今やトレンドともいえるほどになっています。その大きな理由のひとつは,こどもの精神障害の診断の不備にあります。今日, DSM-IV-TRやICD-10といった操作的診断基準が臨床で多用されていますが,そこで最も頁が割かれているのは発達障害です。ここにはすべてのこどもの問題行動が羅列されています。これを受けて,他のこどもとのコミュニケーションが少々苦手であるとか,教師に反抗的であるといっただけで,アスペルガー障害やADHDと診断されている例は枚挙に暇がありません。そもそも操作的診断基準はマニュアルであり,診断基準のそれぞれの項目に該当するか否かを判別し,該当した項目の個数で診断を決めるというものです。もともと統計や研究のための診断という任務のみを負っていた操作的診断基準が,臨床現場に侵入しそこを占領してしまった感があります。これに全面的に従って診断を行うことにより,症状,行動,適応といった表面的な事象に焦点を当てる一方で,発病に至る家族,環境,力動関係や無意識的世界が無視されてしまうようになりました。たとえば,あるこどもについて,この子はアスペルガー障害だからこうであるに違いないという十派一絡的な議論が展開されたり,その決め付けに従って,両親や教師を指導したりすることです。また,被虐待児も生物学的な背景の強い多動児も,同じADHDとして診断されてしまうという困った事態に陥ります。発達障害と同じく大きな問題となっている虐待は,主に保護者の問題です。子育てというのは,決して楽しいことの連続ではなく,どちらかと言えば辛いことや苦しいことの方が多いものかもしれません。こうした苦しさに耐えることが苦手な保護者が,子育て困難に陥ったり,時には虐待という悲惨な事態を引き起こすというケースが増加しています。もちろん,ここには核家族,片親家族などといった現代の家族の問題,隣近所の付き合いの希薄化など地域社会からの孤立化など現実の社会問題も関わっています。このため子育て支援ということが,現在では重要なテーマとなっています。虐待に及んでしまう保護者の多くは,自分自身も不適切に養育された過去があり,世代間伝達のサイクルに陥っています。問題のある過去の養育体験を整理できないままでいると,自分が親になることによって過去が襲ってきます。そして,この過去はさらなる虐待を生み,虐待の連鎖が起こり,トラウマがトラウマを生みだす構図となってしまっています。フロイトは心的外傷説を捨てることで精神分析を展開させました。しかし<, b>現代の精神分析は,トラウマというフロイトが重視しなかったテーマを取り扱う必要に迫られています。そのために,創意工夫が求められているのです。(「まえがき」より抜粋)

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